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福岡地方裁判所 昭和42年(ワ)919号 判決 1971年12月14日

原告 古森俊樹

右訴訟代理人弁護士 斎藤鳩彦

被告 上長尾開拓農業協同組合

右代表者組合長理事 和田政雄

右訴訟代理人弁護士 野上武彦

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告

「原告が被告の組合員であることを確認する。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

二、被告

「主文同旨」の判決を求める。

第二、原告の主張

請求原因

一、(一) 原告は、昭和二六年四月から福岡市大字上長尾三八九番地所在の原告の兄訴外古森茂三宅に居住して、原告所有の田一、八八一平方メートル、兄茂三から借受けた畑約二九七平方メートル、および池田ヨネからの転小作地畑約一九八平方メートルを耕作して農業に従事しており、農業協同組合法にいう「農民」であるから、一般的に農業協同組合の組合員たる資格を有し、被告組合の定款によっても同組合員たる資格を有していたものである。

(二) 被告は、昭和二三年四月二四日、福岡市大字上長尾、同大字野間、同大字檜原地内にあった旧陸軍用地の開拓のために設立された非出資の開拓農業組合であるところ、同四二年三月一八日、福岡県知事の解散命令により解散し、現在清算手続中である。

(三) 原告は、昭和三一年九月一五日頃、当時被告組合員であった訴外友納伊三郎から同人所有の開拓農地を買受けてほしいと依頼されたので、被告協同組合の理事上野前に右買受の可否を問うたところ同人が了承したので、その際同理事に対し、口頭で被告組合への加入申込をし、約一〇日後同理事から口頭で組合加入承認の通知を受けたので、原告は被告組合の組合員となった。

なお、(1)、被告組合への加入手続は、定款によれば、まず申込書の提出を要するものとされているが、被告組合においては加入申込に際し、申込書を提出した実例はなく、同組合には加入申込書の備え付けがなかった。

(2) 上野理事は、被告組合への加入申込書を受理する権限を有していた。

即ち、被告組合の定款によれば、組合長に代理権を与えているのであるが、そのことは組合長以外の他の理事の代理権、ことに加入申込受理権を奪ったものとはいえないからである。

(3) 上野理事が原告に対してした組合加入承認行為も有効である。即ち、その定款によると、被告組合では組合長は理事の過半数の決裁によって業務を総理し代理権を行使しなければならない旨の制限があり、その制限が右上野理事の代理権に加えられていたとしても、原告は、その事実を知らず、善意の第三者であった。

(4) 被告組合の定款によれば、同組合への加入に際しては組合員名簿への記載を要するとされているが、被告組合には組合員名簿の備え付けがなかったし、仮りに名簿への記載が必要であるとしても単なる確認的措置にすぎない。

二、仮りに、前記請求原因事実だけでは、原告の被告組合への加入承認の効力が直ちに発生しないとしても、右請求原因事実に加えて

(一)  原告は、昭和三一年九月一五日前記上野理事の仲介で、前記友納伊三郎から同人所有の開拓農地であった福岡市大字上長尾字大牟田一三番地の七〇畑三筆合計一、八五一・三平方メートルおよび被告組合における右友納の組合員たる地位一切について、右農地の売買に対する福岡県知事の許可を条件として代金六万円の支払いを了してこれを譲り受け爾来自ら耕作してきたが、右農地の売買について昭和三三年七月一日福岡県知事の許可があったので、原告はこれに因り同日右農地の所有権を取得するとともに被告組合員の地位をも取得したこと。

(二)  原告は、昭和三一年九月一五日以降、事実上被告組合員として取り扱われていた。即ち、(1)被告組合は、昭和三一年九月中旬以降、原告が右友納から譲受けた農地を自ら耕作していることを一貫して認めてきた、(2)原告は、昭和三二年春原告の妻松乃を通じ、被告組合に対し、前記友納伊三郎名義で昭和三一年分の組合員に対する賦課金を納入した、(3)その際、被告組合長和田政雄から、当時組合員名簿としても代用されていた「組合員土地台帳」の友納伊三郎の欄の肩に「古森俊樹」と名義変更のための予備的記載をしてもらった、(4)前記上野理事は、昭和三二年暮か翌三三年始頃、原告に対し組合費納入の事実を確かめたうえ「それならようございます。」といい、(5)又同理事は、同年一〇月頃、関理事とともに原告方を訪れ「正組合員と認めます。」と確言した、(6)又日本住宅公団が福岡都市計画長尾土地区画整理事業(昭和三六年五月一三日事業計画認可告示)を施行した際、原告および被告の全組合員で日本住宅公団誘致推進委員会が設けられ、右住宅公団と本件開拓地域内の農地の売買交渉が行なわれたが、昭和三三年九月二〇日右委員会は同年八月八日以降なされた交渉のための渉外費は、組合員以外の者からは徴収しない旨の申し合わせをしたが、原告は昭和三四年五月二五日、被告組合の役員によって構成された右推進委員会の役員会から、右渉外費として八、四一五円を徴収された。

以上の各事実を綜合すると、原告は、昭和三一年九月一五日頃に遡のぼって組合員の地位を取得したものであり、仮りにそうでないとしても遅くとも昭和三三年七月一日までには被告組合員の地位を取得した。

三、しかるに被告は、昭和三三年八月以降、原告を全く組合員として取り扱わず、被告組合の清算手続からも原告を排除しているので原告は被告に対し、原告が被告組合の組合員であることの確認を求める。

≪以下事実省略≫

理由

第一、一、請求原因一の(一)の事実中、原告が昭和二六年四月から兄茂三方に居住し、田畑を耕作していた事実は当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば、その余の事実も認めることができ、右認定に反する証拠はない。

二、請求原因一の(二)の事実は、被告共同組合の設立時期の点を除いて当事者間に争いなく、≪証拠省略≫によれば、被告組合は昭和二四年四月二四日に設立されたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

三、請求原因一の(三)の事実について

≪証拠省略≫によれば次の事実が認められ、右認定を動かすに足る証拠はない。すなわち、原告は昭和三一年九月ごろ、被告組合員である訴外友納伊三郎から同人の所有する原告主張の開拓農地の買受方を依頼されたので、当時被告組合の理事であり、且つ地元農地委員会の農地委員で実力者でもあった訴外上野前にこのことを相談したところ、その了承が得られたので、同理事の仲介のもとに右土地の売買契約を締結し、直ちに原告が右土地を耕作しはじめた。しかし、右開拓農地はすでに昭和二九年ごろいわゆる成功検査を受けてはいたが、農地法の規定によりなおあと一年くらいはその譲渡が禁止され、農林大臣の許可がなければその譲渡は効力を生じないことになっており、そのことは原告も右訴外上野から聞いて知っていたがその点は同訴外人がうまくとりはからってくれるものと信じていた。そして右訴外上野は被告組合の事務を担当する訴外大山美智子に対し、訴外友納の土地は原告がこれを引き継いだから、今後訴外友納あての連絡等はすべて原告あてにするよう指示した。その結果被告組合の組合費の徴収については同年度で打切りとなっており同年度の組合費については、同年七月訴外友納名義の徴収令書が原告に交付され、原告がこれを被告組合に納入し、訴外友納名義の領収証が発行されたこと被告組合には組合員名簿なるものはないが、これに代る土地台帳があり、昭和四二年五月頃原告から、組合員資格を認めるよう要求をうけた被告組合の理事関志基三郎が、関係書類を調査したところ、右台帳上訴外友納の名前の上か横かに原告の名前が鉛筆書で記載されていることを発見したこと、そして、昭和三三年ごろ右開拓農地が他の一般農地と同様に譲渡が許されるようになったので、訴外上野の指示で、県知事の許可を受けたうえ、本件土地の所有名義を訴外友納から原告に変更するため登記手続を経由した。

以上の事実を総合すれば、原告が訴外友納から本件土地を買い受けるについて被告組合の上野理事に相談したところ、同理事がこれを承認したのであるが、その承認の意味は、法律上右土地の譲渡は禁止されているので無効であるが、事実上当事者間で売買契約を締結して原告が右土地を耕作することを黙認し、被告組合に対する関係でも事実上原告が訴外友納に代って行動できるようにとりはからうことを約束したものと解せられる。したがって、原告はその後は、右上野理事の指示により被告組合の事務員から組合員たる訴外友純納伊三郎の身代りとして取扱いを受けたことがあったが、被告組合との関係ではあくまで訴外友納が組合員であって、原告はただその身代りとして事実上組合員と同様の取り扱いを受けたにすぎないことになる。しかも、そのことを知っていたのは前記訴外上野、同大山らのみであって、理事会にはかったわけでもなく理事のうち何名がこれを知っていたかも不明であり、むしろ≪証拠省略≫によれば被告組合においては訴外和田組合長も訴外関理事も開拓農地が日本住宅公団に売渡される際、本件が問題になってはじめて右のような事情を知ったことが認められるので、被告組合が右事実を知りつつ黙認していたことにもならないと解せられる。

もっとも訴外上野理事のみは原告が訴外友納に代って事実上組合員として行動することを承認していたことになる(≪証拠省略≫によればその後、訴外上野、同関の理事が原告を正組合員と認める旨明言した旨の供述部分があるが、これに反する≪証拠省略≫に照らして直ちに措信しがたい)ので、これが原告の組合加入を被告組合が承認したことにならないかどうかが問題となる。

そもそも一般に既存の農業協同組合への新規加入は、加入希望者の申込と組合の承諾とによって成立する加入契約によるのであるが、右承諾の権限が組合のいかなる機関に属するかについては検討を要するところ、この点について農業協同組合法にはとくに規定するところがなく、唯同法第四一条により法人の理事の権限に関する民法第五二条二項第五三条を準用し、また、原本の存在成立ともに争いのない甲第一号証(被告組合の定款写)によれば、定款第九条に「組合員となろうとする者は申込書を提出しなければならない。理事が前項の申込を承認した時はその旨を申込人に通知し組合員名簿に記載するものとする」との規定があり、これだけからすれば、右定款の規程は右民法第五二条にいう別段の定として一見各理事の承認のみで加入の効力を生ずるかの如くにみえるが、他面右定款によれば、被告組合には八名の理事を置き、そのうちから組合長一名を互選し、その組合長が理事の過半数の決裁に従って業務を執行し、組合を代表する旨が定められているので、(第二〇条、第二三条)組合加入という極めて重要な事項を一人の理事のみの承認にかからせることにしたものとはとうてい考えられず、むしろ複数の理事が置かれてる被告組合の場合は民法第五二条二項の多数決原則に従うべきものとし、従って定款第九条にいう「理事」とは単独の理事の意味ではなく、理事全員ないしは理事全員で構成される理事会を指すものと解すべきであって、右定款には他にも同様の趣旨で「理事」の語が使用されていると考えられるものがある(例えば二六条二項、三一条二項、三二条、三三条、四一条等。なお右定款には理事会についての規定がまったくない)。したがって右第九条は組合加入の承諾の権限を理事会の決議事項としたものと解すべきであり、被告組合における実際の運用も同様であったことは≪証拠省略≫によりこれを首肯することができる。そして農業協同組合のような社団法人たる組合への加入という、組合の組織に関する行為の場合には、右理事会の決議は、組合対第三者の一般取引における代表機関の行為の動機としての意思決定とは異なり、右意思決定機関の決定がなければ加入は成立せず、たんに代表機関が承諾の意思表示をしても無効であると解すべきであり、また農業協同組合法四一条で準用される民法五四条の規定は本件のような事実関係のもとにおいては、その適用はないと解すべきである。

第二、(一) 次に原告は組合員である者からその所有する開拓農地とともに組合員たる地位の譲渡を受ければ組合員となると主張する。≪証拠省略≫によれば、原告主張の事実中、昭和三三年七月一日、原告が訴外友納伊三郎から先に買受けていた農地の所有権を取得した事実を認めることができ右認定に反する証拠はない。しかし、被告組合の如き非出資組合においては、「持分」なるものは存在しないから、「持分」の譲渡なるものを考えることができず、事実上組合員が非組合員と交替するとしても、それは単に旧組合員の脱退と新組合員の加入とが同時に行なわれるにすぎず、脱退および加入はそれぞれ所定の手続に従って行なわれなければならないこととなる。

従って、原告が訴外友納伊三郎から開拓農地を譲り受けたとしても、それは右訴外友納が農地を全部他に譲渡したことにより被告組合員としての資格を失ない、当然に被告組合員としての地位を失うことになったにすぎず、それによって原告が当然に右訴外友納の有していた被告組合の組合員たる地位を承継するものではなく、新しく被告組合への加入手続を経ない限り組合員たる地位を取得しないものというべきである。

従って、請求原因二の(一)の主張もそれだけでは不十分というべきである。

(二) 次に原告は、原告が被告組合から種々組合員と同様の取扱をうけた事実があると主張するが、その事情は前記第一で判示したような事情にもとづくものであって、これによって被告組合が原告を組合員と認めたものでないことは明らかである。

(三) 次に原告は、請求原因一、二の(一)、(二)の全事実を綜合すれば、原告に組合員たる地位が認められると主張するが、その全てを綜合しても被告組合の組合員たる地位を認めることはできない。

第三、結論

よって、原告の被告に対する本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 木本楢雄 裁判官 綱脇和久 加島義正)

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